甘いもの、特に砂糖は貴重な調味料のひとつであり、エネルギー源にもなり、それ自体体に悪いものではありません。しかし取りすぎてしまうと、虫歯や歯周病を起こしやすくなったり、肥満をはじめ多くの生活習慣病のリスクを高めたりします。現在の世の中には甘いものが溢れているため、うっかりすると甘いものを取りすぎてしまいがちです。最近、砂糖の摂取量をはっきり示した食のガイドラインが示されました。今回は、どのように甘いものと付き合っていけばよいのかということについて、述べてみたいと思います。
砂糖と虫歯
甘いもの、砂糖を摂取するといわゆる虫歯菌が酸を産生します。この酸によって歯の表面が溶かされます。一方でこの酸は唾液によって中和され、溶かされた歯の表面の修復が起こります。しかし砂糖を取り続けると、虫歯菌は大量の酸を産生し続けて、唾液の修復機構が働かなくなります。歯は溶かされ続けて、その結果虫歯になるのです。
虫歯のリスクを減らすためには、食事と食事の間の間食を考える必要があります。飴などの口の中に長くとどまるものをとると、虫歯になりやすくなります。また、お砂糖の入った清涼飲料水、スポーツドリンク、缶コーヒーなどにも注意が必要です。口の中に糖分が残っている時間が問題と考えていただいて良いでしょう。食事の2時間前からは飲食を避けるとか、冷蔵庫の中にジュースなどを置かないというような工夫も良いかもしれません。
砂糖の取りすぎは虫歯だけでなく、歯肉炎や歯周病も引き起こします。一般的に、歯周病は成人になってからの病気ですが、最近ではその前兆である子供の歯肉炎が増えているという報告があります。これらは、まさに生活習慣がつくる病気であり、子供の頃からの食習慣から始まっているともいえます。
砂糖のとりすぎと健康リスク
砂糖の取りすぎは、虫歯だけではなく、生活習慣病のリスクにもつながることが明らかになってきました。まずはカロリーの取りすぎによる肥満が挙げられます。しかし最近はそれ以外にも注目が集まっています。砂糖を多く摂取すると肝臓に中性脂肪がたまり、肝炎(非アルコール性肝炎)につながることが示されています。また、急激に血糖値が上昇すると、動脈硬化をはじめとする循環器の病気のリスクを高めることが知られています。さらに、過剰な糖分は、物忘れや認知症などの発症にかかわることが明らかになっています。
2015年にWHOは「成人および子供のための糖類の摂取に関するガイドライン」を発表しました。このガイドラインでは、非感染性疾患(糖尿病、脳卒中、心臓病やがんなど)を減らすためには、糖類の摂取量を一日の摂取エネルギーの「10%までとすることを推奨する」としています。加えて、「5%より低ければ、さらに健康増進効果が得られる」としています。成人の一日の摂取エネルギーを2500kcalとすると、5%というと砂糖量にして30g程度です。この量は通常の食事ですと、調味料としてすでに食事に含まれてしまっていることが多いかと思われます。したがって、おやつとして摂取できる砂糖は「なし」ということになります。このことは子供についても同じです。おやつやデザートは毎日食べるのではなく、せいぜい週末のご褒美程度にとどめておくぐらいが良いのかもしれません。
米国心臓学会は、2016年に2〜18歳の一日あたりの添加糖(砂糖だけでなくはちみつ、シロップ、果汁などを含む)の摂取量を25g未満にすることを勧告しています。さらに2歳未満の小児については、食事への添加糖分を含まないように提言しています。味の好みは生後早期に決まると言われており、乳幼児期に甘味に偏ると、肥満の増加や高血圧や心臓病などのリスクが高まることになると考えられているからです。近年、砂糖の摂取に対する考え方は、大きな転換期を迎えています。虫歯予防だけでなく、健康のためにも砂糖の取りすぎには注意をしたいものです。