前回述べたように、健康な歯で「食べ物をよく噛む」ことは、全身の健康維持に大きな効果があります。今回も、よく噛んで食べることの健康効果について引き続き述べたいと思います。

●しっかり噛んで健康になる
よく噛むことによって期待できる効果には次のようなものがあります。これらは、次に挙げる項目の頭文字をとって、現在よりおそらく噛む回数の多かった弥生時代女帝“卑弥呼”になぞらえて「ひみこ(卑弥呼)のは(歯)がいいぜ」という標語となっています。

① 「ひ」:肥満の予防
近年多くの調査によって肥満の人は早食いの傾向があることが明らかになったこともあり、よく噛むことによる肥満予防の効果が期待されています。事実、日本肥満学会の「肥満治療のガイドライン」によると、一口につき20〜30回噛むこと(咀嚼法)が肥満治療における行動療法のひとつとして挙げられています。よく噛むことによって、少ない食事量でも満腹感が得られやすくなることや、噛むことによるエネルギー消費が増加することなどがその理由として考えられています。

② 「み」:味覚を発達させる
味は舌の表面にある味蕾という味覚センサーで感知します。食べ物の味成分は、よく噛んで食べ物が細かく粉砕されることによって多く放出されます。味成分が多くあれば味覚センサーは味を感じやすくなります。味を多く感じることによって味覚が発達し、さまざまな味を感じられるようになり、食事をより楽しむことができるようになります。

③ 「こ」:言葉の発音がはっきりする
お口は食べ物を食べるだけでなく、言葉を発する「発音」という機能も担っています。よく噛むことによって舌やお口の周りの筋肉が発達して、きれいな発音ができるようになります。また、筋肉の発達により表情が豊かになったり、顎の発達や整った歯並びにも良い効果が期待できます。

④ 「の」:脳の発達を促す
これまでの数多くの研究によって、噛むことが脳の働きを活発にすることが明らかにされています。とくに認知機能については、噛む刺激によって脳の「海馬」という部位が活性化され、記憶などの学習能力が向上すると考えられています。

⑤ 「は」:歯の病気を予防する
唾液にはお口に溜まった汚れを洗い流す「自浄作用」があります。また、唾液には酸や虫歯菌によって溶かされた歯の表面を修復する作用もあります。さらに、唾液の中には免疫物質があり、お口の中の細菌を減少させる作用もあります。よく噛むことによって唾液の分泌が増加すると、これらの作用によってお口の中が清潔に保たれ、虫歯や歯周病の予防につながるのです。

⑥ 「が」:癌を予防する
唾液にはペルオキシダーゼという酵素が含まれています。この酵素は発癌物質から作られる活性酸素を取り除き、発癌を抑える働きがあります。またこの酵素は、体の老化を防止したり動脈硬化や糖尿病を予防する効果もあります。

⑦ 「い」:胃腸の働きをよくする
よく噛むことによって唾液の分泌が促されると、唾液中にあるアミラーゼという消化酵素によって食べ物の消化が促進されます。また噛む動作によって消化管の運動が促進され胃液や膵液などの消化酵素の分泌も活発になります。

⑧ 「ぜ」:全身の体力向上
よく噛んで食べることによって、丈夫なあごがつくられます。あごが充分に発達しないと歯並びが悪くなるだけでなく、運動能力も低下するなどいろいろな問題が生ずる可能性があります。高齢者では、歯がなくなると転倒リスクが高くなるという報告もあります。

●よく噛むためには「健康な歯」が必要です
歯を健康に保つためには、毎日の歯磨きを適切に行い、虫歯や歯周病の原因となるプラーク(歯垢)をしっかり取り除くことが必要です。特に就寝前は丁寧にされるのをお勧めします。ご自身のケアで取り除けないプラーク(歯垢)や歯石は必ず生じてきますから、定期的に歯科医院でクリーニングを受け取り除いてもらうと良いでしょう。あわせて「虫歯や歯周病の有無」「噛み合わせの変化」「唾液の減少」「入れ歯の適合」などについてもチェックしてもらい、病気の早期発見早期治療に努めましょう。