歯ブラシだけだと歯と歯の間の汚れやプラーク(歯垢)などの取り残しがどうしても多くなってしまいます。せっかく歯磨きをしても取り残されたプラーク(歯垢)のせいで、また虫歯や歯周病になってしまったりすることもあるのです。
 特に中高年以降になると歯茎が痩せて歯の根っこの部分が出てきます。出てきた歯の根っこは虫歯になりやすく、また困ったことにこの部位の虫歯は治療が難しいのです。歯を守るためには、この部位にできるだけ虫歯を作らないようにしていただくことが大切です。歯と歯の間や歯の生え際のプラーク(歯垢)をきちんと取り除くことで虫歯になるリスクを軽減することができます。
 若い方でも歯と歯の間から虫歯になることがあります。この部分の虫歯は見つけにくく「かくれ虫歯」とも呼ばれています。見つかった時点で虫歯がかなり進行しておりやむなく神経を取る処置に至ったり、あるいは痛みが出るまで虫歯に気付かないことも少なくありません。デンタルフロスを使って歯と歯の間のプラーク(歯垢)を取り除いていただくとこの部分の虫歯の発生を抑えることができます。また、デンタルフロスをお使いいただいていると「ざらつき」や「引っ掛かり」で虫歯を早期に見つけることができ、大事に至らないで済む場合もあります。
 虫歯だけでなく、歯周病の予防のためにも歯と歯の間のお手入れをお勧めします。この部分が綺麗にできないとどうしても歯茎の炎症が残り、腫れや出血が続くことになります。歯周病の予防をしたいのであれば、歯と歯の間のお手入れを欠かさないようにされた方が良いでしょう。
 当然ながら、歯周病の方や歯周病の治療をされた方は、歯茎の炎症のコントロールは必須です。プラーク(歯垢)を取り除き、歯茎の炎症をなくさない限り、歯周病の改善は見込めず、また一度治った歯周病も再発してしまうことになりかねません。そのためには、歯と歯の間に溜まったプラークも綺麗に取り除く必要があります。
 歯と歯の間のプラーク(歯垢)を取り除くには、歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシといった補助的清掃用具を使われると便利です。これら補助的清掃用具を用いると格段にプラーク(歯垢)除去効果があがるというデータがあるのでご紹介いたします。歯ブラシのみでブラッシングした場合のプラーク(歯垢)除去率は61%、一方歯磨きに加えてデンタルフロスを使用すると、プラーク(歯垢)除去率は79%になります。これに加えて歯間ブラシを併用すれば、プラーク(歯垢)除去率は85%にまで上がります。(日歯保存誌 歯間ブラシの歯間部のプラーク除去効果より)
 これはプラーク(歯垢)除去率でいうと、60%と80〜85%で一見大差ないように思えるかもしれません。しかし、プラーク(歯垢)残存率に置き換えると40%と15〜20%となり、倍以上の差になります。また、一般的に歯磨きが綺麗にできているかどうかは、磨き残しすなわちプラーク(歯垢)残存率が20%以下というのがひとつの指標となっています。ですので、デンタルフロスや歯間ブラシを使わないと、綺麗に磨けている状態にまでならないとも言えます。このことからも、歯ブラシだけで終わらないでこれらの補助的器具を使われることをおすすめいたします。
 これまで述べてきたように、歯と歯の間のプラーク(歯垢)の除去は、予防歯科の視点からいうと大変大切なのですが、日本のデンタルフロスの使用率は19、1%と低く、一般的に用いられているとは言えないようです。一方、予防歯科の進んでいる欧米を見てみると、米国は60.2%でスウェーデンでは51.3%となっています。日本は世界有数の長寿国であるにもかかわらず、口腔衛生に関しては世界レベルには程遠いという状態であるのは大変残念に思います。
 話は少しそれますが、この予防歯科の意識が低いことが、日本でのインプラント周囲炎などのトラブルが多いことの原因の一つになっていると推測しています。すなわち、歯磨きや定期検診の大切さが十分理解されていないにもかかわらず安易にインプラント治療を受けてしまうことによって、インプラントのトラブルが起こっていると考えられるのです。そういった意味では、日本においてはインプラント治療の土壌ができていないとも言えるのではないでしょうか。ちなみに当歯科院では、磨き残しが10%台で継続できていること、定期検診とクリーニングの重要性を十分理解されていることなどをインプラント治療の要件とさせていただいています。磨き残しが10%台となるにはデンタルフロスや歯間ブラシを使用しなければ難しいと思われます。インプラント治療に限らず、お口の健康を守るためには、歯ブラシだけで歯磨きを終わらずにデンタルフロスや歯間ブラシの使用していただければと思います。