●歯肉縁上プラークと歯肉縁下プラークについて
プラークには、歯ぐきより上の歯の部分(歯が見えている部分)についている歯肉縁上プラークと歯と歯ぐきの間の溝いわゆる歯周ポケットの中で歯の根っこの部分(歯ぐきに隠れて見えない部分)にくっついている歯肉縁下プラークがあります。
 どちらも細菌の塊ですが、細菌の種類が異なります。歯肉縁上プラークには、連鎖球菌、放線菌、グラム陽性桿菌などが多く見られ、これらの細菌によって歯肉炎が引き起こされると考えられています。一方歯肉縁下プラークは、歯周ポケットの中でバイオフィルムを形成します。このバイオフィルムの中で、いくつかの特別な細菌、いわゆる歯周病菌が増殖することによって、歯周病が起こり、歯周組織が破壊されることになります。ですので、歯周病の治療や予防には、歯肉縁下プラークの中の細菌を排除したり、増殖を抑制したりすることが重要となります。
 
●ブラッシング(歯磨き)の効果
 ブラッシングによって細菌の塊であるプラークは取り除くことができます。このことは、50年ほど前にデンマークで行われた研究により明らかにされました。歯学部の学生さんに2週間歯磨きをしないで過ごしてもらい、プラークの付着状態と歯肉炎の状態を調べたのです。歯磨きをやめて数日するとプラークの付着が顕著となってきます。さらに、1週間もしないうちに歯ぐきの腫れも見られるようになってきます。しかし、2週間後に歯磨きを再開すると、またたく間にプラークの付着も歯ぐきの腫れも無くなってしまいました。すなわち、ブラッシングにより、細菌の塊であるプラークは効果的に取り除くことができ、その結果歯ぐきの腫れ(歯肉炎)も治るということが示されたのです。

●ブラッシングは歯肉縁下プラークにも効果がある
 ブラッシングによって歯肉縁上のプラークは取り除くことはできますが、歯周ポケットの中にある歯肉縁下プラークには歯ブラシの毛先は届きません。そのため、歯肉縁下プラークにはブラッシングは効果がないのではないかと思われるかもしれません。しかしながら、実はブラッシングによって歯肉縁上プラークを取り除けば、歯肉縁下プラークの増殖も抑制できるのです。
 このことは30年ほど前にサルを使った実験で明らかになりました。サルを2つのグループに分け、ひとつのグループは歯磨きをしないようにし、もう片方のグループはブラッシングで歯肉縁上プラークを取り除くようにして、歯肉縁下プラークの形成を調べました。その結果、ブラッシングをしなかったグループには歯肉縁下プラークの形成が見られたのですが、ブラッシングをしたグループには歯肉縁下プラークの形成は見られなかったというのです。つまり、歯肉縁上のプラークをコントロールすれば、歯肉縁下プラークの増殖は抑制できるということが示されたのです。
 これらのことから、ブラッシングによって歯肉縁上のプラークをきれいに取り除くことが、歯周病の予防や治療にはとりわけ有効でかつ重要であることがご理解いただけたことと思います。