最近の研究によると、むし歯はむし歯菌(う蝕原生菌)が感染することによって起こる感染症であると考えられています。生まれたばかりの赤ちゃんにはむし歯菌はいません。むし歯菌がいなければ虫歯にはなりません。しかし、どこかの段階で、むし歯菌が赤ちゃんのお口の中に入ってしまいむし歯菌に感染してしまいます。残念ながら、現状ではこのむし歯菌の感染を一生涯にわたって防ぐことはほぼ不可能で、現実的ではありません。もし、お子様が生まれてから3歳ぐらいまでの間にむし歯菌に感染しなければ、虫歯になりにくくなる可能性があります。
 今回はどうして3歳ぐらいまでの期間が重要なのかということについて説明してみようと思います。これにはお口の中の細菌についてのお話をさせていただく必要があります。私たちの口の中にはたくさんの種類の細菌がすんでいます。その中には、むし歯や歯周病を引き起こすいわゆる悪玉菌もいれば、お口の中の環境を整えたり、病原菌の活動を押さえたりして、我々の体にとってむしろ有益な、いわゆる善玉菌もいます。これらの細菌は常に勢力争いをしつつバランスを保っています。この勢力バランスは生まれてから3歳ぐらいまでの間にその大まかなものが決まります。これを、専門的には「口腔内の細菌叢が形成される」といいます。
一度この細菌叢が形成されると、後から新しい細菌が入ってきても、その細菌は大きな勢力を持つことができず、大量に増殖するのは難しくなります。このことをむし歯菌に置き換えてみると、もし3歳までにむし歯菌の感染がなければ、むし歯菌のいない細菌叢が出来上がります。その後にむし歯菌に感染したとしても、むし歯菌はお口の中で大量に増殖することができません。むし歯菌の数が少なければそれだけ虫歯にはなりにくくなるのです。
実際、世界的に最も有名な歯科大学のひとつ、スウエーデンのイエテボリ大学の研究では、2歳までにむし歯菌の感染がなかった子どもが4歳になったとき、見つかったむし歯は0.3本だけでした。一方、2歳までにむし歯菌に感染した子供は、4歳になった時にむし歯は5本見つかっており、その差は16倍もありました。
このようにむし歯菌の感染を3歳以降に遅らせることによって虫歯になりにくい歯ができることは明らかです。ただ、むし歯の数が少なくても歯磨きを怠ったり、むし歯菌の最大の栄養素であるお砂糖の取り方に注意をしなければむし歯を予防することはできません。食事の前1〜2時間はお砂糖の入った食べ物飲み物は与えないようにするなどの工夫をされてはいかがでしょう。むし歯ができにくい生活習慣を身につけて、生涯虫歯に悩まされることのない人生を歩めるようにしてあげるのは、お子様への最高のプレゼントとなるのではないでしょうか。