昨今、歯ぎしりによるトラブルは少なくありません。事実当院では、多い時には一週間に何人もの方が、歯ぎしりや食いしばりが原因と考えられるトラブルで来院されます。そこで今回は、歯ぎしりが歯や顎に及ぼす影響について述べたいと思います。
過度の歯ぎしりが色々なお口のトラブルの原因となっていることは明らかです。歯ぎしりの一番の問題は、多くの場合歯ぎしりは無意識下で行われるということです。自分が歯ぎしりをしていることを自覚しておられる方もなかにはおられますが、歯ぎしりの明らかな兆候やそれによる症状があるにもかかわらず全く歯ぎしりを自覚されてない方は少なくないのです。自覚がなければ当然ながら抑制することはできません。
歯ぎしりというと、多くの方は歯をギリギリするというイメージがおありになると思います。しかしながら、専門的には実は歯ぎしりはそれだけではありません。前述したものはグラインディングというタイプのものです。この他に、クレンチングといって、無意識に歯をかみしめるタイプ、いわゆる「くいしばり」も歯ぎしりに含まれます。さらに、タッピングといって、歯をカチカチとすはやく噛み合わせるタイプや、ナッシングといって細かく歯を動かし一定の場所だけ細かくすりあわせるタイプなどがあります。歯ぎしりのうち音がしない「くいしばり」タイプのものは、ご本人あるいはご家族や周囲の方から気づかれにくく、放置されることによって種々のトラブルの原因となることもあるので特に注意が必要です。
歯ぎしりによって、ご自分の体重ほどの力が歯に加わるとも言われており、そのため以下に挙げるような悪影響が及ぶ可能性があります。
●歯が異常にすり減る:歯をすり合わせることによって、上下の歯の噛み合っている部分がすり減り、歯の高さが低くなってしまうことがあります。噛み合わせが低くなることによって老け顔になる可能性もあります。
●歯が欠けたり割れたりする:歯に強い力が加わることによって、歯に亀裂やヒビがはいったりすることがあります。ときには歯が割れてしまうこともあり、割れ方によっては歯を失うこともあります。
●歯周病が進行しやすくなる:炎症がある歯周組織に「過剰な力」が加わると、歯を支えている歯槽骨が失われやすくなり、結果歯周病が加速度的に進行することが考えられます。
●知覚過敏を起こす:歯ぎしりによって歯の根元に応力がかかり、その部分の歯が削れたようにくぼんだりすることによって知覚過敏が起きやすくなります。また、歯がすり減ったり亀裂が入ったりすることでも知覚過敏になります。
●顎関節症を引き起こす:顎関節症の原因の多くは歯ぎしりやくいしばりによるものです。強い力や弱い力でも長時間におよぶと顎の関節周囲の筋肉や顎の関節自体に障害が生じ、痛みがでたり口が開きづらくなったりします。
歯ぎしりはほぼほとんどの方がされているものの、多くの方はその程度は許容範囲内にあり、支障なく日常生活を送られているものと推察いたします。だだし、上記のような症状がある場合は過度な歯ぎしりをされている可能性がありますので、ご自分の歯を守るために一度お近くの歯科医院でご相談されてみてはいかがでしょうか。
歯ぎしりは無意識でされていることが多いためこれを完全にコントロールするのは容易ではありません。歯科医院でできるひとつの対策として、マウスピースのような装置(スプリント)があります。これを就寝中に装着することで歯ぎしりや歯ぎしりによるダメージを軽減することができます。