歯が抜けてしまったまま、特に生活に支障がないかたといって、そのままにしている方もおられるようです。一本歯がないないぐらいでは、食べるのにそれほど不自由は感じられないかもしれません。しかしながら、歯は一本ないだけで、噛み合わせのバランスが崩れ、見た目にはもちろん、身体にも影響が出てしまう可能性があります。放置しておいたものをいざ治療しようとすると、治療が難しく、多大な時間や費用がかかってしまうこともあります。今回は、歯が抜けたままにしておくと起こる影響についてご紹介いたします。ぜひ、参考になさってください。

●抜けた歯のスペースに対合歯が伸びて出てきてしまう
それぞれの歯が噛み合う相手の歯を対合歯といいます。すなわち下顎の歯なら上顎の歯、上顎の歯なら下顎の歯ということになります。歯が抜けたままにしておくと、この対合歯がなくなってできたスペースに向かって伸びて、飛び出してきます。そのため、歯並びが崩れ、抜けた歯のスペースを埋める処置が難しくなってしまいます。

●抜けた歯の両隣の歯が、抜けた歯のスペースに向かって傾いてくる
もともと歯はスクラムを組み支え合って噛む力に耐えています。歯が抜けてスペースができると、その部分の支えがなくなるため、抜けた歯の両隣の歯は歯がなくなったスペースに向かって倒れ込むように傾いてきてしまいます。
 そのため、噛み合わせが悪くなり、顎がずれてうまく食事ができなくなったりします。異常な噛み癖がついて、顎関節症になったり、顔の変形もみられたりすることもあります。このような状態になると、当然ながら治療には多くの時間と費用がかかります。矯正治療などの保険外の治療も考えていただく必要がでてくる場合もあります。
また、傾いた歯には噛む力が異常な方向に加わったり、歯磨きが難しくなったりすることから、たとえ健全な歯であっても歯を失うリスクが増加してきます。

●抜けた歯の治療
抜けた歯によっては、たとえば親知らずや一番奥の歯などは、場合によっては治療せずそのままにしておいても差し支えない場合もあります。しかしながら、多くの場合、上に述べたような理由から、抜けた歯とそのまま放置したりせず、かかりつけの歯医者さんと相談の上、適当な時期に治療を受けられるがよろしいかと思います。
抜けた歯のスペースを埋める方法としては、一般的には3つあります。取り外しの入れ歯、ブリッジ、インプラントです。どの方法を取ったとしても、メリットとデメリットがありますから、これもかかりつけの歯医者さんと相談の上、ご自分にとって納得のいく方法で治療をしてもらってください。ただ私のほうからひとつだけ注意点を申し上げるとすれば、安易にインプラントを選択しないほうがよろしいかと思います。インプラントは、歯磨きができて、かつ定期的にクリーニングなどのメンテナンスをきちんと受けられる方のみに限ります。日本でのインプラント周囲炎の多さを指摘する報告をみるにつけ、老婆心ながら申し添えておきます。