歯ぐきの境目あたりの歯に窪みができていませんか?実はこれはむし歯ではなく非う蝕性歯頸部歯質欠損(noncarious cervical lesion:NCCL:以下NCCL)の可能性があります。NCCLとは耳慣れない言葉かもしれませんが、これは歯頸部付近に生じたう蝕ではない、物理的あるいは化学的な原因による歯質の欠損を示す言葉です。これまで歯質が失われる主な原因は「むし歯」でしたが、これは歯磨きや定期的なクリーニングなどの適切なケアを施せばある程度予防できるようになりました。そのこともあり、NCCLのようなむし歯以外の原因による歯質の喪失(非齲蝕性歯質欠損)が、歯科の新たな課題として最近注目されるようになってきたのです。
一般的によく見られるのは、歯ぐきとの境目付近の歯が楔状に凹む、いわゆる楔状欠損(Wedge-shaped deFect:WSD)と言われるものです。この他にも皿状に凹んだものやそれらの中間型のものなど、さまざまな形態のものがあります。NCCLの発症頻度は46.7%でほぼ半数の方に見られています。年齢とともに発症頻度は上昇し、歯質の喪失量も大きくなる傾向があるようです。発症部位は、小臼歯や犬歯あるいは第一大臼歯の唇側や頬側に多く見られますが、前歯や第二大臼歯にも発症します。また歯の内側(舌側ないしは口蓋側)にも生ずることもあります。
NCCLの原因については、私が歯科医師になった頃は「強いブラッシング」が原因で歯が削れてできるとされていました。その後、歯ぎしりなどの噛み合わせによる負荷(咬合応力)が主な原因ということになったのですが、現在は、「咬合応力」だけでなくさまざまな要因が関与してできるいわゆる多因子疾患であるという考え方が有力です。すなわち、歯ぎしりや食いしばりなどの「咬合応力」に加え、酸性の飲み物や食べ物によって起こる「酸蝕」や歯ブラシや歯磨き剤の影響で生じる「摩耗」などの複数の要因が絡みあっている可能性が高いということになっています。ただし、再現性のある実験や研究が乏しく、咬合応力の関与について異論を唱える論文もあることなどから、NCCLの原因については今後も議論が続くと考えられます。
NCCLの予防や進行を防止するためには、上述したようにいくつかの発症原因が考えられているため、これらの原因にそれぞれ対応していく必要があります。まずは「歯磨き」では、強い力での横磨きを避けていただくことも大切です。硬めの歯ブラシも避け、「ふつう」か「柔らかめ」の歯ブラシをお使いいただいたほうが賢明かと思います。さらに、研磨剤入りの歯磨き剤の使用は避けていただくのがよろしいかと思います。これは、水だけのブラッシングでは歯のすり減りは認められなかったものの研磨剤入りの歯磨き剤を使用した場合にのみ歯のすり減りが認められたという研究報告があるからです。研磨剤の入っていない歯磨き剤について分かりにくければ、かかりつけの歯科医院でお尋ねいただくと良いでしょう。ちなみに当院では、「check up root care」と「ジェルコートF」という研磨剤無配合の歯磨き剤を販売しています。ただし研磨剤無配合の歯磨き剤は歯の着色が取れにくいという欠点がありますのでご注意ください。