日本において、糖尿病に罹患している人とその可能性を否定できない人とを合わせると二千万人以上になるとのことです。さらに、40歳以上の人の3人に1人は糖尿病の疑いがあるとも言われています。すなわち、糖尿病は日本人にとってもはや国民病ともいえる病気ではないでしょうか。その糖尿病と歯周病には密接な関係があることが最近の研究で明らかになってきました。今回は、最新の知見を踏まえて、歯科医からの糖尿病の治療や予防に関わるお話をしてみたいと思います。

●歯周治療で糖尿病は改善する
 以前から、歯周病は糖尿病の合併症のひとつといわれてきました。これは、多くの疫学的調査の結果、糖尿病の人はそうでない人に比べて歯周病に罹患している人が多いということが示されたからです。
最近、糖尿病の人が歯周病になると糖尿病の症状が悪化しやすくなるということも明らかになりました。さらに興味深いことに、歯周病を治療すると、糖尿病の症状が改善したり、薬を減量したりすることができるようになることがわかりました。すなわち、歯周病は単に糖尿病の合併症のひとつとしてだけでなく、糖尿病の症状に悪影響を及ぼしている可能性が示唆されているのです。

●歯周病菌の内毒素で糖尿病が悪化する
 歯周病があると、歯周病菌は炎症のある歯茎から血管内に侵入し、全身にまわります。体にまわったほとんどの歯周病菌は体の免疫によって死滅してしまうのですが、実はこの死滅した歯周病菌がもつ内毒素が、糖尿病に悪影響を与えることがわかってきたのです。
 少し詳しくお話ししますと、この歯周病菌の内毒素は、脂肪組織や肝臓からのT N F―αという因子(サイトカイン)の産生放出を促進させる作用があります。放出されたT N F―αは、血液中の糖分の細胞への取り込みを抑制する作用があるため、結果血液中の血糖値を上昇させてしまうことになるのです。
 事実、歯周病を発症している糖尿病患者さんに歯周治療を行うと、血液中のT N F―αの値が減少するだけでなく、血糖値のコントロール状態を示す指標であるHbA1c値も改善するという結果が得られています。

●「糖尿病がイヤなら歯を磨きなさい」
糖尿病専門医の西田亙先生は、多くのご講演をなさっておられ、本も何冊か出版なさっておられる著名な方です。先生の著書の中に「糖尿病がイヤなら歯を磨きなさい」というものがあります。なんとも衝撃的な題名ですが、この本で、先生は糖尿病専門医の立場から、歯周病の治療や予防の重要性を述べておられます。
歯周病は無症状で発病進行します。ですので、歯周病の症状がなくても、少なくとも年に数回はお近くの歯科医院で定期的に歯周病などの検査とクリーニングを受けられることをおすすめします。これは、歯周病の早期発見、早期治療あるいは予防などお口の健康だけでなく、糖尿病をはじめとした全身の健康のためにも重要なことです。もちろん日々の歯磨きなどのホームケアもきちんとする必要があります。お口の健康を保ち、健康的な生活をお送りいただけるようお祈りいたします。