子供のころから「よく噛んで食べなさい」と言われてきた方も多いかと思います。「噛む」ことは、食べ物を細かくして消化を助けることだけでなく、思いのほか私たちの健康と深く関わっていることがわかってきました。そこで今回は、「よく噛む」ことの大切さについてご紹介したいと思います。
●「噛む」というのは、ただ食べ物を細かくするというだけの動作ではありません。食べ物をお口にいれると、自然に顎が動き、上下の歯が食べ物をすりつぶしていきます。単純な動作のように思われるかもしれませんが、実は顔面にあるいくつもの筋肉が、お口の中の感覚と協調して動かなくてはいけません。この複雑な動作を行うことによって、全身の機能が活性化され、体全体の健康に良い効果をもたらすと考えられています。さらに、発育中のお子様であれば、 噛む動作が口の周りの筋肉を刺激し、あごの発達を助けたり、表情をゆたかにすることにもつながっています。
●よく噛むことによって期待できる効果には次のようなものがあります。
①肥満予防
②味覚の発達
③言葉の発音
④脳の発達
⑤歯の病気予防
⑥癌の予防
⑦胃腸の働きをよくする
⑧全身の体力向上
これら8つの効果の頭文字をとり、「卑弥呼のはがいいぜ」という標語となっています。
●健康のためには一体どのぐらい噛めばいいのでしょうか?「ひとくちにつき30回」というのをよく耳にするように思います。事実、日本歯科医師会もこの回数を推奨しています。この回数は、比較的噛みごたえのある食品、たとえば大根やニンジンの煮物などを、噛んで細かくし、唾液とまぜて飲み込みやすい状態にまでするのに必要な回数とされています。しかしながら、そばやうどん、あるいは豆腐やゼリーなどのような柔らかい食品については、30回噛むのはちょっと難しいかもしれません。そのような食品であれば、10回以上噛むのを目標にされてみてはいかがでしょうか。
●現代ではやわらかい食べ物が好まれる傾向にあることもあって、咀嚼回数は減少しています。昭和の初期(戦前)では1420回であった咀嚼回数が、現代では620回となっているという報告があります。一方で、現代では食事にかける時間が少なくなっており、ゆっくりと食事をする時間がとれていないことも噛む回数が少なくなっている原因のひとつであるとの指摘もあります。噛む回数を増やすためには、食事の時間をしっかりとり、食事のメニューにやわらかい食品ばかりでなく多少噛みごたえのあるものを加えるというような工夫も有効かもしれません。ご自身の健康のためにも、時間をかけてよく噛んで、食事を楽しんでいただきたいものです。