年齢を重ねると体の様々な機能や働きが衰えるようになります。これを一般的には「老化」と呼んでいます。体の「老化」については広く知られているのですが、お口も加齢とともに老化現象が現れてくるのです。今回は「お口の老化」と「口腔機能低下症」について述べていきたいと思います。
昨今「健康寿命」という言葉をよく耳にされると思います。これは介護などを必要とすることなく、自立した生活を送れている期間の寿 命のことです。日本は国民の平均寿命が伸び、世界でも有数の長寿社会となりました。それは素晴らしいことですが、一方で寝たきりの状態でいくら寿命を伸ばしても果たしてそれが本当に幸せなのかという疑問が生じます。これからは元気で生活できる寿命すなわち「健康寿命」を伸ばすことが、期待されるのではないでしょうか。この「健康寿命」をのばすためには、「お口の健康」が大切であることが明らかになってきました。
最近、「口腔機能低下症」が注目されはじめています。すこし耳慣れない言葉かもしれませんが、この「口腔機能低下症」は「お口の老化」により起こります。「お口の老化」が進み「口腔機能低下症」になると食べる機能が低下し、食事が進まなくなります。すると、全身的な低栄養が生じ、全身的虚弱となり、結果起き上がったりすることが困難となり、寝たきりになってしまうのです。こうした「寝たきり」になってしまう一連の過程の最初の段階として「口腔機能低下症」は位置付けられています。言い方を変えれば、この「口腔機能低下症」に陥らないようにすることで「健康寿命」を伸ばすことができると考えられているのです。
「ものを食べる」という動作について考えてみましょう。私たちは食べ物をお口に入れた後、唇を閉じて、舌を使って食べ物を歯のあるところまで運びます。食べ物を歯の上に置いた後、上下の歯で噛み砕き、唾液を混ぜながら食べ物をすりつぶして小さな塊にしていきます。最後にその塊を舌を使って食道の方に送り、飲み込みます。これが「食べる」という一連の動作で、「噛む」「飲み込む」「唇や舌を動かす」「唾液を出す」といった様々なお口の機能が複合的にかつ協調的に働かなくてはなりません。もし、これらの機能がひとつでもうまく働かなくなると「ものを食べる」という動作に支障をきたすようになります。残念なことにお口の機能は年齢と共に低下していきます。それは体の他の部位の機能が歳を重ねると衰えるのと一緒でいたしかたないことかもしれません。
ただ、「お口の老化」を早期に発見し対応することで、「口腔機能低下症」に陥るのを予防したり、遅らせたりすることが可能です。たとえば、食事をしている時に、食べ物をこぼしやすくなったり、食事中にむせやすくなったり、あるいは食べ物によっては飲み込みにくくなったりというようなことがあると「お口の老化」を疑います。これらをそのまま放置しておくと「噛みにくい」が「噛めない」に、「飲み込みにくい」が「飲み込めない」になってしまいます。このようになってしまうと、食べ物を摂ることが困難になり、栄養不足による体の衰弱や病気の発症にまでつながってしまいます。そうならようにするためには、「お口の老化」のサインを早い段階で見つけ、「口腔機能低下症」に陥らないように予防していくことが望まれます。
日頃から歯科検診やクリーニングのために定期的に歯科医院に通院されていれば、お口の状態の変化が分かりやすく、「お口の老化」なとの兆候も把握しやすくなります。また早期に「お口の老化」の予防や機能改善のためのアドバイスも受けることができます。このような「かかりつけ医」を持つことはお口の健康のみならず、ひいては全身の健康維持のためにも大切なのではないでしょうか。