歯周病を引き起こすいわゆる歯周病菌は一種類ではなくいくつかの細菌が歯周病菌として同定されています。これら歯周病菌の中でもとりわけ、ポルフィロモナス ジンジバーリス(Pg菌)という菌が、強い病原性をもっており、この菌に感染すると、治りにくい歯周病になったり、比較的若いうちから歯周病になったりすることがわかっています。
最近の研究で、このPg菌は歯周病を引き起こすだけでなく、全身にも悪影響を与えることが明らかになってきました。この菌は糖尿病、動脈硬化、関節リウマチ、アルツハイマーなどの病気と関係しているとの報告があるのです。加えて、新型コロナ感染症を重症化させる可能性も指摘されています。今回はこの最強の歯周病菌であるPg菌について解説したいと思います。
●Pg菌とは
この細菌の名前は「ポルフィロモナス ジンジバーリス」です。「ポルフィロモナス」とはポルフィン鉄が好きな個体という意味です。一方「ジンジバーリス」は歯肉(ジンジバ)が由来ですから、語源からいうとこの菌は「鉄が好きな歯肉に住む個体」ということになります。
事実この細菌は「鉄」をエサにしています。生体のなかでは「鉄」は赤血球のヘモグロビンにあります。すなわちこの細菌は、炎症があり歯肉出血がみられる部位や深くなった歯周ポケットの中などを好みます。
●Pg菌の悪性度
このPg菌は単体ではそれほど強い細菌ではありません。しかしながら、お口の中のいろいろな細菌が歯に付着し歯垢(プラーク)となり、バイオフィルムが形成されると、このバイオフィルムの中でPg菌はその強力な悪性度を発揮するようになります。その結果、強い歯周病が起こるのです。歯肉出血があると、このPg菌のエサとなる血液中の鉄が供給され、Pg菌はますます凶暴になり、歯肉ポケットの奥深いところまで侵入し、歯周組織の破壊が急激に進むようになります。もし歯周ポケットの中に黒い歯石がみられる時には、このPg菌の感染を疑っても差し支えないでしょう。歯石が黒くなるのは、血液中の「鉄」によるもので、出血があったからです。
●Pg菌と全身疾患と関連について
Pg菌はバイオフィルムの中だけでなく、歯肉、舌、頬粘膜の細胞の中にも侵入し住むことができます。Pg菌は他の歯周病菌に比べて細胞の中に侵入する能力が高いとされています。それだけにとどまらず、この細菌は近くの毛細血管の壁を通りぬけて、血管内に達することができるとのことです。
血管内に侵入したPg菌は血流によって全身に運ばれ様々な臓器で疾患を引き起こす可能性が指摘されています。これまでに心臓弁、動脈、肝臓、胎盤、脳など様々な臓器の病変部位でPg菌のDNAが検出されています。これらの多くはPg菌のDNAあるいはその断片であって、生きた細菌ではないのでその生死はわかりませんが、マウスを使った実験で生きたPg菌を注射すると脳にアルツハイマーの病変に似た変化が生ずることがわかっています。今後生きたPg菌を使ったこのような研究がすすめば、Pg菌と全身の病気の因果関係はより明確になると期待されます。