これまで述べてきたように、歯周病は全身のさまざまな病気の発症や進行と関連があること明らかになってきています。今回は、歯周病の「認知症」との関わりについて紹介したいと思います。
●歯を失うと認知機能が低下する
歯を失う原因の多くは歯周病です。歯周病などで歯を失ってしまうと、食べ物を「噛む」ことができなくなるだけでなく、噛むことによる脳の活性化が起こりにくくなり、認知機能を低下させてしまう可能性があります。
65歳以上の男女4千人を対象に、4年間にわたり認知機能と歯の本数との関係期について調査した報告があります。この調査結果では、歯がほとんど無く、入れ歯など(インプラントを含む)を使用していないグループは、歯が20本以上残っているグループに比べ認知症になるリスクが1.9倍になっていました。この研究だけでなくその他多くの報告によっても、「歯を失うと認知機能が低下する」という結果が得られています。
噛むという動作が脳の活性化に関与していることが考えられます。事実、私たちが食べ物を噛むとその刺激は脳の中心部にある海馬という部位に伝わり、その部分の機能を活性化することがわかっています。海馬は「記憶の司令塔」とも呼ばれており、その部分が刺激されると記憶量力や空間認識機能が向上すると言われていいます。
●歯周病がアルツハイマー病の悪化の原因に
歯周病などで歯を失うと認知症のリスクが高まることは上述した通りですが、これはあくまで「間接的」な原因にすぎません。しかし、認知症の研究がすすむにつれ、認知症の中でも最も多い「アルツハイマー」病の原因に、歯周病が直接関与している可能性があることがわかってきました。
2013年、アルツハイマー病の患者さんの脳から歯周病菌が発見されたのです。以後の研究においても、同様にアルツハイマー病の患者さんの脳から、歯周病菌や歯周病菌のつくる毒素が見つかっています。さらに驚くべきことに、歯周病菌をマウスに投与するとマウスの脳に、アルツハイマー病でみられるような脳の「シミ」ができたという研究の報告もあります。
これらのことから、歯周病はアルツハイマー病などの認知症の発症や悪化に間接的だけでなく直接的な原因となっている可能性が考えられています。
●歯周病を予防して健康な生活を
歯周病は認知症のみならずその他の多くの全身の病気の発症や悪化に関係していることが明らかになってきました。健康で快適な生活をおくるためにも、歯周病の予防は大切です。
歯周病は自覚症状に乏しく、進行するまで病気に気づかないことが少なくありません。また、ご自宅での歯磨きだけでは歯周病の原因である歯垢(プラーク)を100%取り除くことはできず、歯周病を完全に予防するのは困難です。歯周病の予防、あるいは早期発見早期治療のために、歯科医院で検診とクリーニングを定期的に受けられることをお勧めします。歯周病を予防して健康で快適な生活をお送りいただきたいと思います。