感染予防と口腔ケア
ウイルス感染の予防には、手洗いやうがい、マスクの着用や手指の消毒などがあります。「お口を清潔に保つ」ことも感染予防に重要であるにもかかわらず、残念ながらこのことはあまり知られていないようです。そこで今回はウイルス感染予防におけるお口のケアの重要性について述べたいと思います。
●口腔ケアでインフルエンザの発症率が10分の1に減少
これは、ある大学の研究グループが東京都内の介護施設にデイケアで通う65歳以上の高齢者を対象に行なった研究です。対象者を2つのグループに分け、ひとつのグループ(98人)は通常の歯磨きに加えて週1回の歯科衛生士による口腔ケアを実施しました。もう一方のグループ(92人)は、衛生士による口腔ケアは行わずご自分で行う通常の歯みがきだけをしてもらいました。半年後に、両グループの風邪およびインフルエンザの発症率について調査しました。
その結果、歯科衛生士による口腔ケアを実施したグループは、歯みがきだけのグループに対して、風邪の発症率は40%減少し、インフルエンザについては発症率が90%も減少していたのです。すなわちお口のケアによってインフルエンザの発症率が10分の1になったのです。このことは、適切な口腔ケアは、風邪やインフルエンザの予防効果が期待できることを示すものと考えられます。
●お口のケアでウイルス感染を予防しよう
インフルエンザなどのウイルス感染は、鼻や口あるいは目の粘膜から起こります。上述したように、インフルエンザウイルスはお口のケアが不十分だと起こり易くなりますが、これはお口の中の細菌と関係があるのです。
細菌の出すタンパク分解酵素が、ウイルスの粘膜細胞への侵入を促すと考えられているのです。特に歯周病菌などの悪玉菌は強力なタンパク分解酵素を産生して、細胞膜を破壊し、ウイルスの侵入を助けてしまうので、注意が必要です。お口を清潔にして虫歯菌や歯周病菌などの悪玉菌を減らすことは、虫歯や歯周病の予防となるだけでなく、ウイルス感染の水際対策となります。
●お口の中をきれいにして免疫力を上げよう
ウイルス感染に対する有効な方法として、体の免疫力を高めることも大切です。特に、腸内細菌は、免疫力と密接な関係があることが知られており、そのバランスを保つことはウイルスをはじめとした感染症の予防に有効であると考えられています。
お口の中が不潔だと、歯周病菌をはじめとしたいわゆる悪玉菌が多く繁殖します。繁殖した悪玉菌は食べ物や唾液によって消化管に運ばれ、腸内細菌にも影響を及ぼします。もし腸内細菌のバランスが崩れると全身の免疫力が低下する恐れがあります。そうなると感染症をはじめとしたいろいろな病気にかかり易くなることになります。
●お口の衛生管理で健康な体に
お口の中では、IgAという抗体が働いていて、体に害を及ぼす細菌やウイルスを排除しています。しかし、お口の中が不潔で、多くの悪玉菌やそれらが産生する有害物質が多量に存在すると、IgA抗体による防御機構の働きが弱くなり、ウイルスなどの感染症にかかりやすくなってしまいます。そうならないためには、お口を清潔にして悪玉菌などの細菌を減らすことが大切です。
このように、お口を清潔に保つことは、ウイルスをはじめとした感染症に強い体を作ることになります。お口を清潔に保つためには、歯みがきなどのセルフケアをきちんとすることが大切です。加えて、セルフケアでとり残したプラークや歯石を歯科医院できれいにしてもらうプロフェッショナルクリーニングを定期的に受けられると良いでしょう。お口の中をきれいにしてウイルス感染にも負けない強い体を作りましょう。